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最新の遺伝子治療

最新の遺伝子治療について


はじめに

遺伝子治療といえば、ヒトの遺伝子を改変するというイメージで捉える方がいるかもしれませんが、そうではありません。この治療法は、遺伝子を細胞に導入して、遺伝子から目的とする蛋白質を作り出させることによって、症状の改善を図るものです。蛋白質そのものを投与しても同様な効果が得られることがありますが、蛋白質はいずれ分解されますので、治療効果を継続させるのは、その蛋白質を常に投与し続けなければならないという欠点があります。また、しばしばその蛋白質の精製に費用がかかるため、その薬が高額となる場合もあります。一方遺伝子治療は、目的とする蛋白質を作る遺伝子をベクターという遺伝子の運び屋にいれて、人体に投与して、目的の臓器で必要な蛋白質を生産し続けることが可能なので、非常にうまくいけば、少ない治療回数で、目的の臓器で必要な蛋白質が長期間にわたって得られるということになります。

対象となる疾患

第一は、遺伝子が先天的に異常をきたし、その結果必要な蛋白質が産生されないためにおこる病気です。小児の先天性の代謝疾患がその例です。必要な酵素蛋白が不十分であるために、いろいろな症状がその遺伝子別に起こります。その場合、遺伝子治療では、たとえば正常な遺伝子を肝臓に発現させることによって、その症状の改善を図ることができます。骨髄移植によってもこのことが可能になる場合もありますが、その場合のドナーの選択、骨髄移植のもつ危険性があり、全ての人に実施できるわけではありません。遺伝子治療の場合、遺伝子と発現させた細胞を患者さんに投与するようなこともありえます。

第二の候補は、神経筋肉疾患です。これらの病気はゆっくりと進行しますが、いずれにしろ、必要な蛋白質が十分に産生されないことに起因します。ところが、その蛋白質をたとえば点滴で補充しようとしても、うまく神経や筋肉に入っていかないということが珍しくありません。遺伝子治療ではピンポイントで正確に目的の神経や筋肉に必要な蛋白質を発現させることが可能であり、そうなると目的とする組織に必要な蛋白質が到達できることになります。

第三は腫瘍です。ただし、腫瘍の場合は上記の疾患と異なり、腫瘍を死滅させることが必要になります。したがって、正常組織に傷害を与えないが腫瘍に殺細胞効果を誘導させることが必要になります。このため、いくつかの方法によって、腫瘍選択的に細胞を死滅させ、場合によっては生体防御反応である免疫応答を活性化する方法も併用されるようになっております。

遺伝子治療の現状

小児をはじめとする遺伝性疾患は、原因遺伝子がすでに同定されていることから、その遺伝子をどのように標的臓器に導入し、恒常的に蛋白質を産生させるかという点に重点が置かれて研究が進んできました。酵素欠損症による代謝性疾患、免疫不全症候群などで非常に良好な結果が得られており、遺伝子治療の有効性が明確に示されている領域です。また欧米では、網膜疾患などにも応用されており、一定の視力の回復が見られた症例があります。しかし、小児を対象とすることから、長期にわたる治療効果の検討、将来にわたって安全性を確保など、今後とも研究の必要な点があることは事実です。また対象となる患児数が限られていることから、より国際的な連携が必要なこともあります。

神経筋肉疾患では、筋ジストロフィーや神経変性疾患(網膜色素変性、パーキンソン病など)でも、動物実験等で有効性が確認され、臨床研究に移行している例があります。これらは、すでに病気が一定以上に進行している場合が多いのですが、それでも効果が得られている症例もあります。人口の老齢化によって、ますます患者さんの増加が見込まれますし、これまで抜本的な治療法に乏しいこともあって、当該分野の研究の進展は期待されております。

腫瘍は臨床研究数が最も多い疾患です。さまざまな腫瘍が標的として挙げられております。最近は、日本の独自の研究による臨床研究が実施されるようになってきており、今後の発展が期待される領域です。特に、人工的に作成されたウイルスが、正常組織を傷害せず、腫瘍細胞のみで増殖して選択的に腫瘍が破壊する研究が進んでおり、米国ではすでに認可を受けて臨床の現場で使用されるようになってきております。また、腫瘍を攻撃する免疫細胞に、標的腫瘍選択的に結合できる分子を挿入し、その結果白血病なので驚くべき効果が報告されるようになってきております。

その他、慢性閉塞性動脈硬化症などのような疾患に対しても血管新生を促したりする研究が本邦では進展を見ており、リンパ浮腫、遺伝性の高脂血症などに対する臨床研究も実施されるようになってきております。

しかし、実際に医療の現場で使用可能な医薬品としては、欧米で数品目しかなく、中国やその他の国々でも認可された薬剤は多くはありませんし、本邦にいたっては未だありません。しかし、最近の薬事法の改正等により、以前に比較しても臨床研究の機会が広がってきているのは事実であり、本邦でもこのような遺伝子医薬が認可されて、近い将来患者さんの治療に使用されることも想定されます。

平成28年4月21日
千葉県がんセンター 研究局がん治療開発グループ部長
千葉大学大学院医学 研究院分子腫瘍生物学客員教授
田川 雅敏


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